こんにちは。本号は、夜にかけて緊迫の度を一段と増した中東情勢と、ちょうど発表された米物価統計を中心にお伝えします。前日の米軍ヘリ撃墜を受け、米軍はホルムズ海峡周辺のイラン領内を攻撃し、イランも湾岸の米軍基地に報復するという直接的な応酬に発展しました。一方、今夜21時半に出た米5月CPIは約3年ぶりの高い伸びとなったものの、コア指数が小幅に下振れし、株価指数先物は下げ渋っています。東京市場は終日売りに押され、日経平均は1,200円を超える下落となりました。本号は、(1)米・イランの直接応酬、(2)米5月CPI、(3)東京市場の続落、(4)原油の地政学プレミアム復活、(5)ドル円と中央銀行、(6)金相場、の6本立てです。
米・イランが直接応酬 — 米軍がイラン領内約20カ所を攻撃、イランも湾岸の米軍基地に報復
中東情勢が一段と緊迫しました。9日夜(米東部時間)にホルムズ海峡近くのオマーン沖で米陸軍のアパッチ攻撃ヘリコプターがイランの無人機により撃墜されたことを受け、米中央軍(CENTCOM)はイラン領内のおよそ20カ所の目標を攻撃したと発表しました。標的はホルムズ海峡周辺の防空システム、地上管制施設、監視レーダーなど軍事インフラとされます。これに対しイランの革命防衛隊(IRGC)は直ちに報復に踏み切り、バーレーンの米第5艦隊司令部やクウェートのアリ・アル・サレム空軍基地への無人機攻撃、ヨルダンのアズラク基地への長距離ミサイル攻撃を実施したと主張しました。4月に成立した停戦は事実上崩れ、米軍部隊への直接攻撃とその報復という危険な応酬の連鎖に入っています。原油・天然ガスの大動脈であるホルムズ海峡は米・イランによる「二重封鎖」の下でなお実質的に閉鎖されており、供給途絶への警戒が市場全体の重しとなっています。トランプ米大統領は交渉継続に含みを残しつつもイランが「代償を払う」と強い姿勢を崩していません。
出典: The Times of Israel / Al Jazeera
米5月CPIが前年比4.2%、約3年ぶり高水準 — コアは小幅下振れ、株先物は下げ渋り
米労働省が10日朝(日本時間21時半)に発表した5月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比4.2%の上昇となり、2023年4月以来約3年ぶりの高い伸びを記録しました。市場予想(4.2%)どおりで、前月比は0.5%上昇、4月の3.8%から3カ月連続で加速しました。イラン紛争に伴うエネルギー価格の急騰が主因で、エネルギー関連は前年比23.5%上昇(4月は17.9%)と大幅に伸びました。住居費(3.4%)や食品(3.1%)の上昇も目立ちます。一方、変動の大きい食品・エネルギーを除くコアCPIは前月比0.2%の上昇と、市場予想(0.3%)をわずかに下回りました。前年比は2.9%で予想どおりながら、2025年9月以来の高水準です。コアが小幅に下振れしたことが安心感を誘い、発表後の株価指数先物は下げ幅を縮めましたが、なお軟調で、S&P500先物が0.5%安、ナスダック100先物が0.7%安、ダウ先物は約257ドル安で推移しました。米長期金利はほぼ横ばいで、市場の重しは物価指標よりも中東情勢にありました。金利先物市場は2026年内の利下げを織り込んでおらず、16〜17日のFOMC(ウォーシュ新議長)は政策金利の据え置きが見込まれています。
出典: Trading Economics / U.S. BLS
東京市場が続落、日経平均は1,237円安の64,179円 — 一時64,000円割れ、CPI前と中東警戒で
10日の東京株式市場で日経平均株価は大幅に続落し、終値は前日比1,237円36銭(1.9%)安の6万4,179円27銭となりました。取引時間中には下げ幅が一時1,600円を超え、節目の6万4,000円を割り込む場面もありました。前日9日は4営業日ぶりに反発して6万5,416円まで戻していましたが、その反動に加え、今夜の米CPIを前にした持ち高調整や、米軍ヘリ撃墜を受けた中東情勢の再緊迫が重しとなり、朝方から終日売りに押される展開でした。半導体・AI関連はまちまちで、アドバンテストなど一部の値がさ株に利益確定売りが出ました。市場では信用買い残が約9兆円と高水準にあることが指摘されており、下落局面で追い証絡みの売りが下げを増幅させるリスクが意識されています。1週間前の3日に史上初の6万8,000円台を付けた水準からは、変動の大きい荒い値動きが続いています。
出典: 日本経済新聞 / Yahoo!ファイナンス
原油は地政学プレミアムが復活、再び上昇 — ブレントは93ドル割れから切り返す
原油相場は再び上昇に転じています。前日9日には、米エネルギー長官がホルムズ海峡の船舶通航の増加に言及したことや、イスラエルとイランが相互の攻撃停止で和平期待が出たことから、北海ブレント原油が一時1バレル93ドルを割り込む約7週間ぶりの安値を付けていました。しかし、10日の米・イランの直接的な軍事応酬で供給途絶への警戒が一気に蒸し返され、地政学リスクプレミアムが復活する格好で原油は切り返しました。米WTI先物は今週初めに一時95ドルを付ける場面もありました。ホルムズ海峡は依然として米・イランの二重封鎖下にあり、タンカーの通航は開戦前を大きく下回ったままです。需要面では、世界最大の輸入国である中国が在庫を取り崩して輸入を絞り、価格の「圧力弁」として働いていることが、これまで100ドル超えを抑える一因となってきました。米EIAによると5月のブレント平均は1バレル107ドルと、4月から10ドル低下しています。供給不安と和平期待がせめぎ合い、ヘッドラインに振らされやすい不安定な地合いが続いています。
出典: Trading Economics / U.S. EIA(STEO)
ドル円は160円台で介入警戒、あすはECB理事会 — 利上げ・据え置きの綱引き続く
外国為替市場でドル円は1ドル160円台で底堅く推移しています。中東有事を背景とした「有事のドル買い」と内外金利差が円の上値を抑える一方、4月30日の介入直前の安値(160円70銭台)が視野に入りつつあり、政府・日銀による円買い介入への警戒が強まっています。片山さつき財務相は「必要なら行動する」と述べ、米当局とも緊密に連絡を取る姿勢を示しています。今夜の米CPIではコアの小幅下振れを受けてドルの上昇が一服する場面もありましたが、方向感は限定的でした。市場の関心は中央銀行の判断が連続する局面に移っています。あす11日には欧州中央銀行(ECB)が理事会を開き、預金金利を0.25%引き上げて2.25%とする利上げに踏み切る公算が大きく、市場は9割超を織り込んでいます。イラン紛争に伴う資源高でユーロ圏のインフレが再加速したことが背景で、ラガルド総裁が追加利上げ余地をどこまで示すかが焦点です。国内では15〜16日の日銀金融政策決定会合で追加利上げ観測(市場の織り込みは8割弱)が高まっており、18日には米FOMCの結果公表も控えています。
出典: 日本経済新聞 / Trading Economics(ECB)
金相場は4,300ドル台で上値重く — 安全資産需要も金利高・ドル高が逆風、「有事のドル買い」が逆説
安全資産とされる金は、1トロイオンス4,300ドル台で上値の重い展開が続いています。中東情勢の緊迫やリスク回避の動きは本来であれば金の買い材料ですが、原油高を起点としたインフレ懸念で米長期金利が約1年ぶりの高水準(10年債利回りは4.5%台)にあることや、ドルが底堅く推移していることが、金利を生まない金の逆風となっています。リスク回避マネーが金ではなく米ドルに向かう「有事のドル買い」が強まり、金も円も買われにくいという逆説的な地合いです。今夜の米CPIでコア指数が小幅に下振れしたことは金にわずかな支援材料となり得ますが、高止まりする金利とドル高が重しとなる構図は変わっていません。もっとも、各国中央銀行の継続的な金購入や、米連邦準備制度の独立性をめぐる懸念といった中長期の押し上げ要因は健在で、年初に付けた最高値圏(5,500ドル超)からの調整が一巡すれば、再び水準を切り上げる余地も指摘されています。原油と米金利の動向をにらんだ展開が続きそうです。
出典: Trading Economics / Investing.com